ドアをそろっと開けるとまっさきに雲雀が目に入った。いつもの机で書類に目を通している。中からただよう冷たい空気が愛おしく、思いきりドアを開けた。バーン!

「ハロー雲雀!」

「僕日本人なんだけど」

あっさりと切り捨てられましたわたくし(15)はこれからどうすればいいのでしょうか!あ、どうもすいませんでしたーとか言いながらこのままドアをしめた方がいいのでしょうか!それともあっ雲雀英語わかんないんだ!じゃあしょうがないね!こんにちは!ププーとか言った方がいいのでしょうか!後者は殺されかねないのでやっぱりやめときます!あい!「うるさい」

「え、わたし何も喋ってない」

「雰囲気が邪魔」

邪魔まで言われた。ただドアに手ーかけてつったてるだけなのに邪魔って言われた。世界でも珍しい光景だと思うのだけれどどうだろう。「視線が邪魔」「また言った!」「入れば」「あ、いいんだ」それじゃあ遠慮せずに失礼します。ふいー涼しい!

どうやら今日はリーゼントはお休みらしい、いつものごつい(絶対中学生じゃない)人は外にも中にもいない。夏休みまで来るわけないかあ。それにしてもなんだこのソファーわたしの家のよりふっかふかってどういうことだ!もちろん座ったのは初めてじゃないけれど。2日に1日はお邪魔してるけれど。そのたびに雲雀が冷たくなっていくんだけれど。それでもわたしは懲りずに明日も来るつもりだ。どうせ補習があるなら雲雀に会いたい。

「雲雀ー、チョコいる?」

「この学校に売店はなかったつもりだけどな」

「コンビニでちょちょっと」

「没収、罰則、今後一切ここには立入禁止」

書類から顔を上げてじろりと睨んでくる雲雀は本当におっかないと思う。まじで。冷や汗流れたもん。

「いやいやごめん、お願い今日だけ」

「昨日は飴、一昨日はクッキー、明日は何がくるか楽しみだね」

「あー、あーはは」

「うるさい。食べるなら食べて、僕はいらない」

そっけなく言った後また視線を書類に戻した。何だかんだ言って見逃してくれる雲雀が好きだなあとか、そんなことを思ってしまうわたしは甘っちょろいだろうか。わたし以外の人だったらきっと本気で追い出していただろうなあと思うのはただの自意識過剰なのだろうか。複雑な気分になりながらチョコのパッケージを開けた。かすかに甘い匂いがする。

「…ほんとにいらないー?」

「手を汚したくはないからね」

「?どういう…、げっ!」

銀紙を掴んで引き出そうとした瞬間、指先にぬるりとした感触。はっとして見ると、掴んだところがへこんでいる。…そりゃそうだ、何時間も放置すればチョコだって溶けるにきまってる。わたしのばかたれ!

「この炎天下の中カバンにチョコ?学習能力ないね」

「う、うるさい!」

ほんのり生ぬるくなったチョコをカバンに押し戻しながら雲雀に吠えた。家に帰ったらまっさきに冷凍庫に入れておこう。