図書室は好きじゃない。本のカビ臭いにおいが嫌いなのだ。こーんな分厚い本の何万っていう文字列を見ているとはっきり言って時間の無駄に思えてきてしまう。だって、今わたしたち(断固として複数形)に必要なのは過去の情報じゃなくてたった今起きている事実でしょう?物騒な世の中なんだしたとえホグワーツ内にいるったって注意しなきゃ。うんうん。

とか言ってるくせに今わたしはその図書室でその文字列の中からレポートに引用でいそうな文章を模索捜索している。明日提出なのにあと40センチもたりないというのはどういうことだ。それはつまりわたしが「いやいやまだ大丈夫でしょーお菓子食べよー」とか調子ぶっこいていたからである。タイムマシンがあれば過去の自分を叱咤したい!ところだけど、とりあえず今はレポートを最優先ということで。頑張っているのです。「吸魂鬼かあー」さっきから何冊も本を引っ張り出しているけれど、どの情報も似たり寄ったりですでにレポートに引用済みだ。「新しい情報が欲しい……」

「なーにしてんのー?」

一瞬びくりとした後、きょろきょろと周りを見回た。えっと、確かさっきの声は……でもここの棚にはわたし以外誰もいない。もう一度右を見て、左を見た。血の気がひいた。「ぎゃ、っ……」「しー」人差し指を唇にあてたジェームズの生首が浮かんでいた。わたしは生首にびくびくしながら、それでも図書室の先生(名前なんだっけ)にはばっくんばっくんしながら悲鳴をあげたがっている口を閉じた。ちょっと奥さん今わたし心拍数200くらいいってますよ!救急車ー!

「な、なんで首だけなの!?もしかして死んじゃった!?姿現し!?」

小声で先生に聞かれないようにしながら自分の疑問をぶちまけた。


「勝手に殺さないでほしいね。それと学校内では――」

「――で、できない……」

「その心は?」

「……透明マント」
「お分かり頂けて光栄です」

にやりと笑いながらマントの前を開けるジェームズにはもう呆れかえるしかない。なんでこんなのがあんな頭脳持ち合わせているのだろう。絶対不公平だ。ため息をつきながら吸魂鬼の資料探しを再開すると、ジェームズの生首が肩ごしに覗いてきた。ああ、一体この胸の高鳴りは顔が近いからなのか怖いからなのか。

「で、さん。なにしてんの?」
「レポートの資料探してるのー。吸魂鬼」
「ふーん」
「……どーせ終わってるんでしょ」
「まあね」
「(イラッ)じゃどっか行ってよ。気が散る」

言いすぎたかな、とちらりと思ったけれど、わたしなんかの言葉でこいつが傷つくわけもないかあと頭からほっぽり出した。少しして肩から顔が消えて、気配もなくなった。あ、ほんとにどっか行っちゃったんだ。そりゃーどっか行けっていったのはわたしだけど……、?あれ?わたしは何を寂しがっているのだろう。文字列が目に入らない。

もしかして怒ったのかな。……いやいや関係無い!ああでもジェームズ、「ジェームズ?」ゴツン。

「いたっ、……?」振り返りざまに何かが頭を打った。恐る恐る目を開けると、一冊の厚い本と指が頭の上で浮いていた。「ジェ、ジェームズ……痛い」ははっ、と愉快そうな笑い声が空気中から広がる。手の甲から腕、腕から頭。マントから完全に姿を現したジェームズは笑っていた。ほっとしていいやら怒りたいやら一緒に笑いたいやら、何がしたいのか自分でもわからない。とりあえず差し出された本を受け取った。かなり古い本らしい、くすんだ色で「アズカバンの牢獄に迫る」と書いてある。

「なに。これ」
「僕が見たなかじゃあそれが一番だよ。レポートには十二分だ」

何度目かわからない笑顔をわたしに向ける。それを見て突然わたしはジェームズに謝った。

「?なんで謝るの」
「わたしばっかりつんけんしてるんだもん」
「あ、アヒル口」
「うるさいなあ」

あ、また口悪く言っちゃった――後悔し終える前にわたしはいつのまにかマントをかぶったジェームズに抱きしめられていた。額に口づけをされて爆発する瞬間、愛おしそうなジェームズの声が耳を撫ぜた。

「ほんっと可愛すぎる」